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探索52日目 2008-09-06
かの火の宝玉の守護者討伐は、あまりにもあっけなく終わった。
元々気の抜けた男だったのだが、故にこちらもそれなりに平静を保ったまま、余分な気負い無く戦いを有利に進めることが出来た。
或いはあの男がそうし向けていたのかもしれない。
分からない。
掴めぬ相手だった。


皆が皆、そつなく火の宝玉を手に入れて喜び合う中、私の心は既に遺跡外の丘陵地へと飛んでいた。
仲介者”ホークアイ”に連絡を取る為だ。
魔法的な儀式を用いてそれを行うのだが、私には西方魔術の心得がない為、あらかじめ教えられた略式の方法を用いることとなっていた。

これを使うのは一度や二度ではない。
今までも”仕事”が終わるか一段落ついた時点で、幾度も行ってきた。
伝わるまでのタイムラグが些か発生してしまうらしいのが欠点で、早めにそれを執り行うのが常だった。

宝玉を集める探索の半分が過ぎたのだ。
いずれすぐに地の宝玉の奪取にも向かう。
あの仲介者との腐れ縁も短くないもので、故に向こうも私と連絡を取るタイミングを分かっているはずだった。

宝玉を手に入れ終え、”力”を手にし、エニシダさんの目的となる”彼女”の討伐に加わる。
これが終われば、私はまた独り。それ故の行動だった。

未練を吹っ切るためのセンチメンタリズムかもしれないと、自分でも思う。否定はできない。
だが、感傷の他にも食い扶持の問題もある。
今までの命を担保にした分の稼ぎはそこそこあるものの、それに寄りかかって刃を研ぎ忘れることが一番恐ろしいのだ。





皆は遺跡外魔法陣にほど近い、地底湖にある市に向かった。
遺跡の外に出る日は、商談取引や材料探し、職人捜しなどで、それはそれで忙しいものだ。

私は早めに目的を済ませ、修道院跡のある丘陵地から歩いた、開けた草地に出た。
少なくとも1キロ四方に人はいないだろう。
晴れすぎた空には蜻蛉が群れを成しており、季節の移り目を感じさせた。

2nd38.jpg


折りたたまれた羊皮紙に描かれた、魔法陣らしきものを取り出す。
石の上にそれを置き、四隅を赤い蝋で止め、上に香草に似たよく分からない草を乗せる。
更にその上に小さな香木を横たえ、指で押さえて、あらかじめ伝えられた詠唱を詠むのだ。

成功すれば火がつき、それが香草を伝って魔法陣を燃やし、特殊な煙が風に乗って消えるのだが、私はこの詠唱が苦手だった。
メモを見ながら何度も読むのだが、発音が悪いようでなかなか火がつかない。
ようやく数度目の詠唱で火がつき、連絡事項を運ぶ魔法の煙は、高くなった秋空へと流れていった。

見上げた高く青い空は何処までも澄んでいて、胸の痛みは少しずつ溶けていくようだった。





夜間、また悪夢を見た。
ここ最近繰り返して見る、青銅色の鬼人が出てくる、あの悪夢だ。
遺跡内での野営時でも見ていたが、修道院跡の安全な寝台の上でも構わずだったようだ。
今日はその鬼人が人間の姿へと変化し、顔を上げたところで目が醒めた。
目が醒めたと言うよりも、起こされた。

相当魘されていたのだろうか、やはり汗で肌がびっしょりだったが、起きた途端に寒気が襲ってきた。
エニシダさんに心配そうな、或いは怪訝な顔で、大丈夫か、と問われてしまった。
そんな表情を作らせてしまう程に、酷い魘され方だったのだろう。申し訳ないことをしてしまった。

少し話した後に寝直すことになったが、どこかで魘されるのを懸念していたのか、浅い眠りしか取れなかった。
代わりに氏の肩口に、起こしたりしないようにそっと指で触れていた。
指先のほんの僅かの温もりが、ゆっくりと私の平静を呼び戻していく。嫌な汗が引いていく。

覚えていよう、この島から去った後も。
氏の目的を終えて去った後も。



私の指先に残る、僅かなこの体温を。


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