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探索53日目 2008-09-12
人斬り、と称される者達がいる。
遺跡の奇怪な生命体のみならず、探索者達をも狩りの範疇に入れる者達。
無論、何故斯様な行為を働くのかは、知るところではない。
やむを得ない故あってのことか、快楽的なものなのか、そもそも命に関する概念自体が違うのか。

いずれにせよ、私と彼らの間の溝は非常に浅く、小さい。
戦場の倣いとはいえ、私の掌は塗れ、引き摺り出し、割り、砕き、切り裂いてきた。一般的に見て、それをするべき対象ではない者にまで。
戦場と遺跡、場所の違いがあるだけだろう。
少なくとも私はそう思っている。
ただ、今はそうする理由もない。組んでいるメンバーを無視して斯様なことに及ぶ理由はない。
それだけの事だ。無論、自分の概念が一般的に見て少数派であることは理解している。
(機甲人馬の破壊依頼などの特例はあったが、あれは無差別ではない上に、一段落した事だ)

我々 Triad Chain は、その辺りの概念が各員で著しく異なっていた。
確認したわけではないのだが、既にそれは暗黙の了解となっている。
具体例を挙げれば、彼ら人斬りとの取引においてだ。



エゼ君やナミサ君、ケイロンさんなどは、恐らく納得の行かないことだろう。
取引に応じたとして、それはきっと本当にやむを得ない場合のみなのだと。
それは以前、第14隊と名乗る兵士の一団を殲滅した時の反応でよく分かっている。
私「たち」二名が彼らの生命を破砕した時、憤慨し、或いは目を背け、そして苦悩していた。

セレナさんやアルテイシアさん、アーヴィンさんなどはどうだろう。
彼ら一番隊の面々は、非常に強固なメンタリティを持っているように思える。
人斬りやそれに伴う世界があることをしっかりと認識し、しかし染まらぬ強固さを。
冒険者としては最も強い、ニュートラルにしてカオスの概念を。

アルクさんはどうなのだろう。
彼女はまだ無垢だ。白い、殆ど何も書かれていないノート。
これから様々を書き込み、整理し、葉を広げて行くのだろう。
事実、島に来たばかりの頃よりも、ずっと語彙や思考の幅が広く、深くなっているようだった。
彼女もまた一番隊の面々のように、認識した後の強固さを持つことになるのだろうか。



―――エニシダさんは、私と同じだった。
確認したわけではないが、するまでもないだろうと思えた。
第14隊兵士の命を奪ったのは、他でもない、エニシダさんと私だけだったのだ。
広い世界を認識しながらも、一番隊の面々のように「清濁併せ飲む」というものではない。

こちら側に居るこの方を向こうに戻すことを、私は使命としている。
この方には帰る場所も待つ人も居るからだ。
平穏と安寧の所へと戻って欲しい。

故に、托す。
僅か残っている、人並みに幸せになりたいという願望を切り取り、密やかに托す。
無論言葉には出さない。私が勝手に托しているだけだ。

エニシダさんにだけではない。
機甲人馬と半人半馬の娘、光の槍使いと島原住民の男性、同業者の戦友と黒猫を連れた槌使いの娘。
こちらはどうなのか分からないが、ハーフエルフの少年と白尽くめの娘。
―――島にいる全ての連れ合いが、どうか幸せになるようにと、私は勝手に願いを托している。



だが、どうなのだろう。
同業者の巨躯の女戦士は言っていた。
『既にこちらの者であろうと、懐中に抱き込める器だと推測している』と。

薄々感じつつも目を逸らしていたことを、さりげに示唆された気がした。
そういう意味では「清濁併せ飲む」事が出来るのでは、と。

私はあの方に戻って欲しいと思いつつも、今こちら側にいる事に奇妙な幸福を感じている。
今こそ、自覚する。完全に振り切れていない自分を。
あの方の器を理解しきれていない自分を。





遺跡外での、人斬りとの取引。
眉を顰める者も多かろうが、彼らとて遺跡外で事を構えるわけに行かないはずなのだが。
それでもという面々の代わりに、私が取引を買って出た。

取引相手は四十がらみの長髪の男だった。彫りが深く窪んだ眼窩に、陰を切り取ったような衣服。
一見しただけで人斬りと分かるその姿、遺跡の平原で単独行動中に遠目に見た者だった。
仲間への危険を少しでも減らそうと、彼に不意打ちをしかけようとした事があったのだ
(結局はエニシダさんに阻止されたので、私の姿は認識されていないのだろうが)。
恐怖感や忌避感はなかったが、相対しているとどことなく背筋が伸びるような感覚はあった。

取引自体は簡単なものだったので、すぐに済んだ。
だが、パワーストーンが入った袋を渡すときに、男は私の顔を食い入るように眺めていた。
暫くして口元を歪め、笑みを浮かべる。


「……ほう。
この島でそれらしい姿を見たという話は小耳に挟んでいたが……なるほど、まさか真実だったとはな。」


私は顔を上げ、昏い双眸を同じように見返した。
頭の何処かで次の言葉の予想は出来ていたのだろう。





「では俺はこれで失礼する。……次に会えるときを楽しみにしているぞ、

 サイレントよ」


2nd39.jpg



去り際の擦れ違いざま、ごく小声で男は言い、雑踏に紛れていった。
何も感じなかった。
焦燥も混乱も、諦観も自嘲も浮かんでこなかった。

機甲人馬破壊の件を思い出したが、あれは対する者が島の外部だった。
それ故の踏み込んだ誅殺だったが、今回は無関係だろう。
確固たる目的があって、こちらと事を構える訳ではなさそうだった。

だがその一言は、私がこちら側に浸かったままだという事を認識させるのには充分だった。
一生お前はそこにいるのだと、明るい場所に行けば消えて無くなるのだと。
そう言われているようなものだった。

腥風(せいふう)が街角を通り抜けていったような気がした。


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