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探索54日目 2008-09-19
誰一人欠けることなく火の宝玉を入手した我々トライアド・チェインは、その勢いに乗って間を置かず、地の宝玉も入手しようということになった。


私はというと、うっかりエゼ君とナミサ君とはぐれてしまったが、目的地は事前に聞いていたので、迷ってしまうということはないだろう。
出くわした物怪と独りで戦うことになるだけだ。大したリスクではない。
そう深くはない、所々陽光も差し込むような明るい森を突っ切るということになっている。
私はこの手の野外活動には慣れているし、エゼ君は森に住む種族だ。どうにでもなる。



森というより林に近い、明るい木々の中の獣道を歩いていると、見覚えのあるインバネスコート姿が見えた。
誰かは瞬時に判別が付いたが、こんな近くのルートから目的地に向かうとは聞いていない。
力強く下草を踏んで進める歩は、明らかに予定した方角から若干ずれていた。
―――……声をかけざるを得なかった。



思わぬ邂逅に、歩きながら少し浮かれてしまっているのが否めない。
遺跡外の一部の時間以外、あまり二人きりになる時間はないのだ。
エニシダさんはどう思っているのか、それでもやはりいつもと変わらず、手合わせ―――練習試合の提案を出してきた。

実際に冒険者同士の手合わせは、ごく日常的に行われている。
会得した力を試したい者、単純明快に見知らぬ者と戦ってみたい者、戦いを介して何かをしようとする者。
各々事情は様々ではあるが、危険に備えての模擬戦闘になるという思考はそう珍しくもなかった。勿論断るべくもない。

―――それに、聞きたかったこともあった。
エニシダさんは父に、責任を持って後悔の無いようにします、と答えたそうだ。
どう取っていいものか捉えかねていたのだが、真正面に聞くのも躊躇われ、ならば手合わせしながらであればと考えたのだ。
無論聞き逃したりしてしまう可能性もあるだろうが、それならそれでよかった。



練習試合は、ほぼ瞬時に決着が付いた。
私は回避と同時に攻撃を入れる技を得意としていたし、エニシダさんは体調に変貌を瞬時に起こす技を得意としているのだ。
息が尽きるまで戦うのも今後に支障を来すので、この場はドローということになった。
千切れた下草が舞う中、双方手加減していたとは言え、苦笑いを隠せない。
本当は御守りする人よりも強くならなければならないのだが、同じ「場所」にいるのだということが嬉しくもあった。

問いは、聞こえただろうか。
半分わざと風のちからを使った戦い方をしていたが、やはり風音に紛れてしまっただろうか。



疲弊が少々残っていた上に周囲が薄暗くなり始めたので、動かずに森の中でビヴァーグをすることにした。確か事前のアルテイシアさんの生体反応調査によると、この周囲には人斬りと呼ばれる面々はいなかったはずだ。
ならば火を焚いても問題はないと思えた。運良く近くに小川もあったので、夕餉を作るのにも困らないだろう。

単独行動では焚くことのない、温かい焚き火の明かり。
冷える初秋の夜気を掻き消す温もりだったが、温かいのはそれだけではないだろう。

保存食からちょっとした夕餉を作り、振る舞った。
自然と話の内容は、昼間の手合わせの話になる。
体術のキレの良さや、攻防一体の斬撃などをとても褒めてくださった。
そういえば、ここ最近の私の戦いを間近で見ておられないはずだ。

エニシダさんも、以前遺跡外での接近戦訓練以来、見違えるような体捌きだった。
穴だらけだった近接時の隙が、驚くほどに少なくなっている。最小限で最大を引き出すような身のこなし、そしてその吸収力。

暫くの間になんだか見違えたな、と、食後のコーヒーを飲みながらエニシダさんが笑んで。
お互いにまだまだ研鑽の余地があると。
どう考えても色気のある会話内容ではないが、それが今の私たちには相応しいと思えた。
純粋に嬉しく感じた。



問いの答えは、聞けなかった。やはり風の音で声が不明瞭になっていたのだろう。
聞き返されることもなかったので、ほんの少し寂しかったが、それでも寂涼の清々しさは残った。
通常よりも冷える森の夜だが、どこか温かいような、満ち足りた感覚なのは、やはり人が側にいるからなのだろう。
密やかに慕う人が。

座していた背後から、静かに布のマフラーを解かれた。
驚いて振り向くと、エニシダさんが少し悪戯っぽい笑みを浮かべて、端を持っていた。
マフラーは防寒用具のひとつなのだ。
流石にないと寒いので抗議しかけたが、それより早くインバネスコートの端が被さってきた。
腕を前に回され、反対の掌で、指で、顎を軽く掴まれる。

えっ、あの、ここで……

そう言おうとしたが、できなくなった。
ひょっとして、これが問いの答えなのだろうか。
わからない。相変わらず私は、こういうことに関しての機知に疎い。
鎖骨に髭があたって、少しぱかりくすぐったかった。


2nd40.jpg



翌朝早く、私たちは火の痕跡を消しつつ森を出た。
眼前には平原が広がり、風が初秋の青草の匂いを運んできていた。
これから一旦離れて行動し、トライアド・チェインの集合場所に赴く事になる。
物怪が出るために離れることもないかもしれないが、当初の予定を狂わせるわけにも行かない。

それに、単独のはずが二人で戻ってきたら、赤毛の銃使いに何を言われるか分かったものではない。

目指すは、平原の果てに存在する森。
地の宝玉の守護者が待つという、あの森。





今暫くは、共に歩いていきたい。
この温かい風と共に。温かい闇と共に。


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