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探索58日目 2008-10-17
しっと 0 1 【▼嫉▼妬】

(名)スル

(1)人の愛情が他に向けられるのを憎むこと。また、その気持ち。特に、男女間の感情についていう。やきもち。悋気(りんき)。
「―心」「夫の愛人に―する」

(2)すぐれた者に対して抱くねたみの気持ち。ねたみ。そねみ。
「友の才能に―をおぼえる」





知識では知っていても、本人を目の前にしても、やはり『嫉妬』という感情を持つことはなかった。
持てなかった。
斯様な考えを抱いて事態が好転するようには全く思えない、という考えが先立ち、それよりも深いところでは、穏やかに安堵と諦観が沸き起こっていた。

2nd44.jpg


先日、たまたま我々の野営地に訪れた女性は、件の人だった。
私がエニシダさんに作った暗器を、ごく自然に所持していた女性だ。
長身に長い黒髪、和洋折衷の不思議な出で立ち。
年の頃は不明で、二十代後半から四十手前まで、如何なる年齢でも無理なく納得が出来そうだった。
探索者相手の薬の行商とのことだった。事実我々ともよく取引がある為、けして無碍にすることのできぬ人だ。

夜間だったため、起きていたのは私一人だった。
故の談笑に及び、色々と聞くことは出来た。
散々からかわれたが、嫌味のないサッパリとした女性だ。
どこか飄々とした所は、エニシダさんとよく似ている。
似ているが故に気が合うのだろうと思った。

話していると、私よりもこの人の方が相応しいのではないかと、自然に思えた。
武器として相応しくあるのは自負するところだが、その他を考えれば下を向くしかない。薄汚い稼業、不安定な魂片、呪われた血統。

愛情が他に向けられる。他者に縁を切られる。遺族に恨まれる。そんなことは茶飯事だ。
今回はそんな事例とは比べるべくも無いほど穏やかで、安心感と諦めが圧倒的に強かった。

故に、嫉妬は沸き起こることはなかった。これからもないだろう。
やはり私は、嫉妬というものをよくわかっていない。
むしろこの人ならば全てが終わった後、かの方を幸福にできるのではないかと。



緩やかな諦観が風のように吹き抜けていく。
「ああ、なんだ。またか。」と。
ようやく葛藤という名の厚い雲は晴れ、陽光が覗いたような気がした。






幸福はほぼ全て掌からこぼれ落ち、僅かしか残らない。
だが、その僅かは確かにある。何もないわけではない。
挙げるならば、この島で様々な者と過ごした記憶。
挙げるならば、証の指輪。
それ以上の何があるというのか。充分だ。



平穏な生活は戦火で焼けただれ、
第二の肉親とは分かり合うことも容易に邂逅することも適わず、
戦場で多くの様々な者を失い、
慕ってくれた者を殺害し、
親しい者との縁が切れるのも茶飯事で、
それでも尚、傭兵稼業を続けている。
幸福はいつか終わるものだ。



私は多大なる幸福に恐怖している。
藻掻きながら、風に吹かれるまま、無意味に戦いを続けている―――


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