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探索68日目 2009-01-22
白刃が唸り、風をまとわりつかせ、黒い喉の奥に消えていく。
明らかに人間とは異質な、堅いゴムのような手応えが、妖刀を介して伝わってきた。
人間の感触も、物怪の感触も、この手からは消えないのかと、そんな考えがよぎる余裕がある程にこの戦いは圧倒的だった。

2nd_54.jpg


山頂を飛び、襲いかかってくる黒い翼の物怪。
まるで得物を狙う鷹か、屍肉を啄む禿鷹のようだ。
人とも思えぬ無貌に灯るのは、表情のない赤い瞳。
鋭い爪は闇の力を宿し、咆吼は大気を切り裂いている。
どう贔屓目に見ても平穏とは縁遠そうなそれに、しかし私は何も感じることはなかった。

母上の故郷は、大陸東方部の山岳地帯だという。
そこでは死者の埋葬は行わず、鳥に貪るがままに任せると―――所謂「鳥葬」が行われているという。
ぽつぽつとそんな話を聞いていたが故に、不吉さは感じなかった。
だからと言って、平穏を感じるほどの余裕も情緒もなかった。
「そういうものだ」と解釈した。



同胞。
マナに冒され、死ぬことでしか解放されることのない、同胞。
遺体は残らず、残された者が居たとしても、それにすがりつくことも出来ない。
私にも既にその兆候は出始めていた。とはいえ、ある程度の意思で調整が可能で、表に出ることはない。
誰も気付いては居ないだろう。そうあってほしい。
如何に人外魔境だらけのこの島とて、全探索者に相対する忌避の存在を放置できるだろうか。おそらく答えは否だ。
露骨に嫌悪を剥き出しにされるか、やむを得ず腫れ物に触るように接するか、無関心を装って巧みに避けられるか。
いずれにせよ、現状では皆に気付かれず知らせずが一番だろう。リスクが大きすぎる。

だが、力は確実に得ることが出来る。実際に五感は鋭く、運動性能は飛躍的に高くなっていた。
このまま傭兵の仕事に戻れば、食いっぱぐれはまず無いだろう。戻れるのかどうか、雇う者が居るかどうかは別問題として、だが。
徐々にマナが体組織を置き換えているのがわかる。まだ序章に過ぎないのか、もう変貌を終えたのかは定かではない。
だが、特に心を病んだり、精神に異常を来しているということはないようだった。



力を得ることが出来れば、それだけあの方の、エニシダさんの力になれる。

役に立てる。

化け物を見るような目で見られてもいい。それでもあの方は力が欲しいはずだから。
最悪、来るべき時にだけでも武器として使って貰えれば、私の存在にも十二分に意味がある。
そう考えると、異形と化していく身体にも嫌悪を感じず、むしろ愛おしいとすら思えた。
異形と化せば化すほど、あの方の幸福に近づいてるようで、何だか温かい気持ちになれた。



指輪はまだ見つからない。
申し訳ない話だが、見つからなくてもそれはそれでいいと思っている。



むしろ、見つかったらどうすればいい?
共に居るリスクが、あの方に大きすぎる。
貴方のことを何も知らないと言ってしまったが、私の事もお話していなかったのだ。
故に、エニシダさんはそのリスクを軽く考えているはずだ。
だからきっと、私を伴侶にしようなどと。

さっさと話すなりして、距離を置いてしまえばいいのに、なぜ私はそうしないのか。
簡単な答えだが、しかしそれを表してしまう勇気もない。
結局、自分のことを考えてしまっている。
最悪だ。



だが、遠くない未来に、この身体のことは白日の下に晒されるだろう。
身体のこともそうだが、今まで生きた経路を話さずに伴侶などになってしまっては、惨事にも程がある。
だったら、近く―――それこそ今度遺跡外に出たときにでも話してしまえばいい。
終わらせるなら早い方がいい。

それならまだ、エニシダさんへの傷は浅くて済むだろうから。


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