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探索69日目 2009-01-28
山頂に雪が降っている。唸るように風が吹いている。
灰色に濁った曇天の空は、まるで今現在の私のようだ。
白にも黒にもなれない、汚れた色だ。

雪だと思ったのは、高濃度のマナのようだった。
風霊の力を使い、なるべく他の面々にそれが触れないように吹き散らした。
散らしたそれは手元に収束させ、見つからぬように少しだけ、体内へと吸収させた。



私には、人生の重要な節目に雪が降るという、妙なジンクスがあった。

一度目は、傭兵時代。
裏切り者の仲間の首を刎ねて殺した。
傭兵の意味でも伴侶の意味でも、共に来ないかと誘ってきた希有な男性だった。
飛沫となって飛んだ血潮の上に、白い雪が降り注ぐコントラストをよく覚えている。

感慨も何もなく、無慈悲で無言。故に「サイレント」などと呼ばれたのだ。
静かなる殺戮者・サイレント、などという二つ名は、明らかに誤って伝わったものだった。
確かにその方がイメージしやすいだろう。ケイロンさんの祖国の刺客や鴉の頭領なども、おそらくそのイメージで見ていたはずだ。



二度目は、つい先日だ。
頂いた指輪を紛失してしまい、あの方とのことも解消しようとしていたあの時だ。
湖畔に呼び出してその事を告げていたら、あっさりと軽く取りに行こうと言われたときの混乱は、どう説明すれば伝わるだろう。
どこか誘導されるように取りに行くことになってしまい、困惑する私に、あの方は、エニシダさんは優しく微笑みかけていた。

そう、結局は互いの胸の内を明かすことになってしまった。
できるだけ秘めていたかったのだが、限界があった。明白だったという話もあるが、それでも口に出すのには勇気が要った。
雪が湖畔を白く染めていく厳寒の中、インバネスコートの中はとても温かかった。



三度目は――― 今。
高濃度のマナを含んだ雪が降る。
あの旅人、ジョシュアの言ったとおりだ。
雪がマナを含んでいるのか、雪に似たマナなのかは解らない。
これに触れればどうなるのか、遺跡の探索者ならば想像に難くはないだろう。

だが、私はあえてそれに甘んじる。
無理に大量に取り込もうとは思わない。
研究者の多くが大量に取り込むと危険だという事を示唆しているし、実際に私もそうだと思うからだ。
確実に、染みこませるように、少しずつ。馴染むようにマナを身体へと。
何時か異形に変わるかもしれない。だが、姿形はどうでも良い。意識さえ正常ならそれでいい。
折角見つかった指輪を嵌められる指ではなくなるかもしれないけれども。


2nd_55.jpg



エニシダさんは、強い。
戦闘能力も、心も、強い。
血の滲むような努力があったのか、元々才能があったのか。おそらくその両方なのだろうが、その戦闘能力は目を見張るものがある。
隊でも恐らく最強と称して良いのではないだろうか。
そして、これからももっと強くなるのだろうと。

―――少しだけ、胸が痛かった。
御護りする人と同じくらい、或いはそれ以上に強くなければ成らないのに、どう頑張ってもそうなりはしないのだろう。
背中を任せるなどと言われたが、それは本当に私で良かったのだろうか。

もう、私などは必要ないのではないか。
背を任せるなど、私に言い含めて安心させる為だろうか。
だからせめて伴侶としての印を渡してきたのかもしれない。
携えられる武器ではなく、添え物の花としてだけのために。
だが、刃が花になれるだろうか? 答えは否、だ。



守るはずの背中が、どんどん遠くなっていく気がしている。
せめて少しでも近づこうと、私はマナに触れる。
役に立つために、その背に触れるために。あの方の悲願の手伝いをするために。
本当に役に立てるかどうかは解らない。だが、些か柔らかいが盾くらいにはなれるだろう。
そう信じて、唇を噛みしめて、血を流しながら歩き出す。

立ち止まっていると、足元からマナに冒され、腐り落ちてしまいそうだったから。


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