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探索71日目 2009-02-11
白く明るい、大満月の夜。
風は飄とも吹いていなかったが、しんと静まりかえった空気は、じわりと包み込むようにつめたい。
遺跡の中にあって月が見えるという状況にも、もうすっかり慣れていた。



いつものように大きな焚き火が二つ。
眠る場所の火と、見張る者の為の火だ。
寝所の周囲には念入りに鳴子や結界が張られ、不意の侵入者を知らせるようになっている。
交代で見張りを立てるのは、火の番と哨戒、そして見知った者が訪れた時の為だった。

現在地は森。森と言っても木々の層は薄く、林と表現した方が正確だろう。
獣道の脇に広めの草地があり、そこを本日の野営地とした。
毎回通常のパーティとは違う人数の我々は、野営地を探すのにはちょっとした苦労も付きまとう。
大抵広さがなかったり、故に遠くから目に付きやすいようになってしまう場所ばかりだった。
それでもやはり、この人数で居るという安全性と安心感は大きかった。



大体は日が落ちると同時に夕餉になる。灯りのための焚き火を有効に使うためだ。
林などはまだいいが、砂地や山岳ともなると、稀に燃料に事欠くことすらある。

私とアルテイシアさんとで夕餉を作る。大抵はこの人数だから鍋料理になる。
保存食の中にある小麦粉や唐黍粉でパンなどを多目に作り、周囲に自生するものも活用する。果物や草の実があれば幸いで、時には鳥の卵や川魚、野鳥などの食材に恵まれることもある。
やはり保存食だけでは辛い。
こういうものは殆ど、冒険者としてのキャリアが長いものや、森の生活に慣れた者が採ってくることが多い。
残りの料理や材料は、希望者に次の日の携行食として渡される。



夕餉を作っている時間、他の面々は各々の作業をこなしている。
武器や防具を作ったり、特殊な技術で武具の威力を高めたり、品々を合成したり。
大抵は夕餉を挟んでの、火の元での作業になる。

一番賑やかな時間で、談笑や鎚と金床の音、魔法や合成による特殊な煙・匂い、調理の音や匂いが皆を包んでいく。



やがて周囲が真闇に包まれると、長い夜が始まる。
大抵は交代で見張りをし、周囲の環境によって、一人か二人かで行う。
昔はケイロンさんやアルテイシアさんに睡眠の意味があるのだろうかと思っていたが、やはり如何なる生命体とて休息が必要なのだと知った。



この日の見張りはとても寒かった。
先日の舞踏会の明るく暖かい館から一転、白い息が木々の周囲に溶けていく環境だ。
焚き火の脇の小さな火―――煮炊き用だ―――に、小さなポットをかけ、湯を沸かす。
程なくして湯が沸いたら、乾燥した薬草の束を放り込む。
これは故郷の薬湯茶の一種で、私が好んで飲んでいるものだ。やや清涼感のある甘い花の香りが夜気に溶ける。

もう一人見張りが居れば振る舞いたいところだが、生憎今夜は一人だった。

2nd_57.jpg


茶の湯気の向こう、川向こうの岩場に狼の姿が見えた。明るい月に照らされ、貫禄たっぷりの冬毛が誇らしげだ。
幸いにも人語を発するような類のものではない、一般的な狼のようで、こちらの火を恐れている。遠吠えもなく、襲ってくることは無さそうだった。

群れからはぐれたのか、おそらくは雄の、文字通りの一匹狼だ。
戦場を駆ける、一匹の狼か。
ふと、己と重ね合わせそうになる。
そうではないと分かってはいるのに、薬指に輪が嵌っているというのに。
条件反射だろうか。それとも、今だ私は―――

その時。岩場の元からもう一匹狼が姿を現した。
体格からすると雌だろうか、最初の狼より一回り小さい。
思わず茶を口に運ぶのも忘れてしまった。
―――暫くすると小さな愛らしい影も姿を現す。子供の狼だった。
そうだ、狼の群れは、番を中心として形成されているのだっけ……

そんなことを考えているうちに、間もなく狼たちは岩場から姿を消していた。



交代の時間だ。
次の見張りはエニシダさんだ。
冒険者の登録番号順に、というのが暗黙の了解となっていた。

寝所に赴き、皆の間をそっと通り過ぎる。
一際酷いいびきはアーヴィンさんのものだろうが、流石に皆慣れてきているのか、深く眠っているようだ。

眠っているエニシダさんの肩をそっと揺さぶろうとし―――やめた。
代わりに鼻の頭に、ほんの軽く口付ける。

「―――……おい。」

流石に勘が鋭い。即刻ばれたようだ。
苦笑いしながら大儀そうに起き上がるエニシダさんに、野営用の毛布を手渡した。

「すみません、交代の時間です。」

小声でそう告げ、自分でも分かるほどに穏やかに笑むことが出来た。




――― Blanket of Night.


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