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探索72日目 2009-02-19
「成る程、違いはそこですか。」

「そうだ。短剣よりも小回りは効かないが、重量に任せて切ることも、それを技量で制御することも可能なんだ。
使用者の技量に寄るところが多いんだが、使いこなせればどうなるかは見ての通りだよ。
―――どうだ?」

「―――……。難しいですね。重量の違いの分、どこか不安です。ガードががら空きになった気分です。」

「うーん……。お前はどちらかというと、身軽さと体術を生かした攻防一体のタイプだからなあ。稼業としても、過剰な殺傷能力を必要とするわけではないんだし。」

「私には向いていないのでしょう。傭兵にも様々なタイプもありますし、技量に合った依頼を受ければいいのです。」

「ははは、それもそうだ! 俺達は冒険者連中みたいに、怪物退治に出向く訳じゃあないんだしな。」

「そう、冒険者と言えば、稀に剣ではなく、カタナやタチといった曲刀を用いている者がいますけれど、あれの違いがよくわからないのですよ。」

「ああ、あれは東方から伝わった刀剣でな、使い方にコツがあるんだ。修練の度合いも剣とは段違いでな、俺には結局使いこなせなんだよ。
軽いように見えるが、割りに重量はある。まず差し方なんだが、カタナとタチでは刃の方向が違っていて―――」




戦地の野営。
其処此処で揺れる篝火。
周囲には国に仕える騎士連中が、大がかりな武器の手入れをしたり、庶務班が煮炊きをしている。
伝令が走り回る中、我々容易に宛がわれた篝火の脇で、『彼』と私は、剣や短剣などを持ち合い、各々についての話をしている。

髪に隠れた火傷跡を除けば、なかなかの美丈夫で通りそうな『彼』と話すにしては、色気も素っ気もない会話だった。
だが当時はそれなりに満ち足りていたのだろう。
静かに高揚していた、戦の前の感覚を思い出す。



―――元来なら、思い出さないようにしていた、記憶。

2nd_58.jpg


マナに冒された私には様々な変化が出ていたが、同時にそれを制御するのは、そう難しいことではなかった。
意識していれば肉体の変化は外に出ない。
強く念じたりする必要はなく、少しのコツでそれは可能だった(疲労や、不安定な精神状態の時に酒を飲む、などの迂闊なことをしなければ、だが)。

ともあれ、そのコントロールが可能という事であれば、別の事にも応用が効くはずだ。

例えば―――脳。

身体を葉脈のように巡るマナを制御できれば、脳に働きかけることも出来ないだろうか。
そう。私が目を付けていたのは、眠っている記憶だった。



あの方の背に追いつく為には、この遺跡に跋扈する物怪や賊、得体の知れぬ輩を相手取るには、今まで通りの戦い方では駄目だと悟った。
つまり、傭兵の常識に囚われていた戦法を捨てることだと。

マナが体内に馴染んでいったのは偶然か呪血のせいか、ともあれ最初は意図していなかったのは確かだ。それを受け入れることにより、ある程度の限界は突破できたと思う。
だが、まだ足りない。対人であるという概念を完全に捨てないといけない。



『俺達は冒険者連中みたいに、怪物退治に出向く訳じゃあないんだしな。』



昔の戦友の言葉が甦る。
『彼』もまさか、その冒険者として、私が遺跡にいるとは思わないだろうなと考えると、強烈な罪悪感が沸き上がって来た。
だが、悔やむために自らの記憶を探ったわけではない。
記憶の中の師を思い出すためだった。

私があの方に追いつくためにとった方法は、剣の修練だった。

我々トライアドチェインの中に、剣を使う者は皆無だ。
近しい知り合いにも、いない(或いは島から去っていった)。
全く心当たりがないわけではないが、いずれも教わるには垣根が厚い。
―――故の、記憶の検索だった。



瞳を閉じ、『彼』が剣を振るっている姿を思い起こす。
幸か不幸か、思った通りにマナが記憶を鮮明に浮かび上がらせてくれた。
立身中背を保つのが基本か。腕の力だけで振ってはいけないのは、短剣と似たところがある。

思い起こす。
どんどん鮮明になる。
気さくで適度に世事にも通じている割りに、どこか不器用で。
傭兵かと思っていたら、それは隠れ蓑で。
どこかの国の密偵で。
その密偵を炙り出すために私が居たのに。

雪が降り始めた

私の何が良かったのですか、と、今なら落ち着いて聞けるだろうか。
短剣が指と喉笛を切り裂く感触

何度も
何度も
思い出す
温い飛沫

かかり
雪と
凄絶な
コントラスト
を 描いて

何度も何度も悔いてきた
未だに悔いて、夢に見る
なるべく思い出さないように
浮かび上がるそれを 
記憶の水底へと、

だけど

―――だけど、あえて自ら思い出す。
剣を使いこなす者の記憶として。
目的のためには、悪夢すら使う覚悟を。

もしかしたらエニシダさんは、不快に思うだろうか。
昔に少し縁のあった男性との軋轢だ。
万が一にも妬くなどということは―――  …… ……
ありえない、か。
ありえないな。



そしてこれは、咎だ。
贖罪や供養などといった綺麗事ではない。
戦場で死に行く者に未練などもない。
それでも、私が背負った咎だ。
剣の業は、私が受け継ぐ。



身体がマナによって軋む音がする。
沈んでいた記憶を引き上げるというのは、結構な負担がかかるものだ。
そろそろメンバーに隠し通すのにも限界があるだろう。
マナの怪物。
忌まれるだろうか。
忌まれる可能性は高い。

それでも。
それでも。


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