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探索73日目 2009-02-24
絶叫しているのか、咆吼しているのかも分からない声が、喉から滑り出た。
体中が軋み、悲鳴を上げる。灼熱を持ったような痛みが、体内を駆け巡る。
反射的に身体が強張るのを、止めることは出来なかった。
酷い高熱が出たときに似ているが、それが瞬間的に体内に発生したことなど考えたこともなく、故に未知の感覚であった。

皮膚の一部がざわめき、乾き、硬化し、鱗となり、鋭利な羽根となっていく。
それが一瞬にして引き起こったのだ。
自らの意思で止めることなど不可能であった。
力の奔流は爆発的に体内へと溢れ出し、青灰色の翼という形をとった。
第三者から見れば、突然服の下が弾け、羽根の爆発が起こったようにしか見えなかっただろう。



それは二番隊との練習試合中に起こった。
ふとした思いつきだったのだ。
脳をコントロール出来るなら、当然肉体のコントロールも出来るだろうと。
故に、少しばかり”留め金”を外してみたらどうかと。
―――それが失敗のもとだった。
マナによる体組織の変貌は、自分でも予測しないところまで来ていた。
加えて、もう隠し通せる限界を突破していたのだ。

練習試合前、アルクさんがどこか不安そうな顔で私を見ていたのは、それを感じ取っていたからなのか。
斯くして彼女の懸念は現実のものとなってしまった。



髪は以前マナドリンクを服用した時のように、一瞬にしてずるりと長く伸びた。
大腿部から、巨大な鷲の翼が生成された。風切り羽根は鋭く、刃のようだ。
腰からは、それより小さな翼が生成された。
他にも細々とした箇所から羽根が生まれてきたが、把握している余裕はなかった。
いずれも青灰色をしており、『黒い翼を持つ者』のような闇色ではなかった。染まっては居なかった。
掌は肥大化し、筋が浮き上がり、爪は異様に尖り始める。これは彼らの鉤爪と酷似していた。

ここまで来ても不思議と私は、私のままだった。
無論、突如として斯様な現象が起こった事への混乱は、大いにある。
だが巷で聞くような、そして遭遇したような、マナに心も冒された連中のようにはなっていなかったのだ。

左の薬指に、鋭い痛みが走った。内部からではない、外的な痛みだ。
舞い散る青灰の羽毛の中、目をやると、肥大化しかけた左の薬指に、金属の輪が食い込んでいた。
指輪だ。
頂いた指輪だ。
それがギリギリと、今だ人間のままの指を締め付けていた。
冷静になって考えてみると失笑ものだが、その時の私には、走る激痛が『冷静になれ』というメッセージに聞こえていた。
事実その痛みは、混乱を一瞬にして鎮めたのだ。



エゼ君やナミサ君の驚愕する顔が視界の隅をよぎった。
この位置からは見えないが、見学していた一番隊の面々も同じような顔をしているのだろう。
ケイロンさんの表情は元々分からなかったが、動揺しているのは容易に見て取れた。
アルクさんの泣きそうな顔も、視界をよぎった。

エニシダさんは、予想通りだった。
夜会で聞いた『俺の青い鳥はこんな色なんだろうな』という言葉。
翼の全貌を目の当たりにしたのは初めてだろうが、それでもこの方は、この方だったのだ。



エニシダさんが居るから、私は魂までマナに冒されていなかったのではないのか。
愛情とも仲間意識とも忠誠ともとれぬ、或いはそれらを全て内包した上での、この感情のせいなのだろう。
異質な概念。武器として使われたいという、尋常ではない概念がマナに冒されぬよう働きかけているのだ。



全身から熱が引いていく。同時に、翼がさらさらと塵となっていく。
酷く眠い。
そうか、夜会での睡魔はこのせいでもあったのか。
考えてみれば、体細胞変化による霊的エネルギーが不足しているのだ。眠くなって当然だった。
草地にがくりと膝を付くと、戦闘服の大腿部が大きく避けて、肌が露出してしまっているのが見て取れた。
簡易裁縫用具は何処にしまっただろうかと、そんな事を考える余裕もあったのだ。


仲間は避けるだろうか、この身体を。忌避するだろうか。
それでもいい。ここで私を追い出すほどの戦力の余裕はないはずだから、最低限の接触になる可能性もあるだろうが、それは仕方がないだろう。
無論説明はするが、どう思われようと覚悟は出来ているつもりだ。

コントロールが可能なことはわかった。戦力にもなるだろう。
これでもまだあの方には及ばないかもしれないが、来るべき時にほんの一瞬でも役に立てるのならば、その時のために惜しみなく鍛錬を続けよう。
流星光底。
一瞬だけ煌めく流星としても、この身体と共に生きよう。

2nd_59.jpg


私はこの青灰色の翼を、誇りに思う。


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