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探索74日目 2009-03-05
上位自我、というものがある。
親と同等かそれ以上の、或いは次元の違う、理屈無き信頼を置く対象だ。

幼少時に戦火で一度死に、魂だけが10年近く成長しつつも彷徨い、その意識を継いだまま生まれた私は、その瞬間から既に少女だった。
赤子にして精神は多感な少女の状態。
生まれながらにして孤独の只中だった。

自我が形成されて育つ過程に於いて、子供というものは通常、親が絶対的存在に当たる。
理屈の要らない、外的から強制のない、絶対的・本能的な信頼。
そして多くの場合、そこから人間的・社会的常識を学ぶのが普通だ。
それを「上位自我」と呼ぶことが多い。



だが、私にはそれが無かった。



絶対的な存在である親は、側にいる私の魂に気付くはずもなく、故に語りかけることもなく、戦火の中で業を深めていく。
激怒しても泣き喚いても懇願しても、一切が届くはずがない。
―――思えばこの時から私は、自分の希望が叶うという状況が分からなかったのかもしれない。
欠落した社会的な常識は、全て彷徨う亡霊となった少女が見聞きして身につけたものだ。仮初めのものだ。



第二の魂とも言える、最初で最後のそれを、私は求めていたのだろう。
誰かに仕えるような騎士にも成らず、ずっと傭兵を続けてきたのは、おそらく自然にこれを探していたのだと、ごく最近になってようやく気付いた。

以前の闘技大会だったか、遺跡内の戦いだったか。
失念してしまったが、エニシダさんが私に命令したことで(本人はそんな気はなかったとしても)、心の枷が取れたことがあった。
自分自身への不信が消え、ただの凶刃が、使うべき元へ収まったことがあった。
それは呪われた剣が、英雄によって業物の剣に変わるような、劇的な変化。



無論、エニシダさんに父親を求めているわけではない。
ただ、会った時から、世間で言う親と同等かそれ以上の、理屈無き信頼を置ける方だと。

唯一無二の命令者だと。

そう感じていた。
理由などはわからない。
何か見えないところで因縁でもあるのだろうか、それともただの直感か。
そしてそれは、ようやく言葉に出来た。



一種の精神疾患に近いだろう、こんな告解をしてもエニシダさんは特に際立った反応はなかった。
というよりも、おそらくは理解されていないのだろう。
むしろ理解できたら、それは異常なことなのだ。
気の済むまま、好きにしたらいいと。
側に置き、命令が欲しければくれてやると。刃として存分に振るってやると。
それだけを言って下さった。

私にとっては正直、他人には忌まわしく見えるだろうこの翼を晒すことよりも、ずっと勇気の要る、重いことだった。
だが、そうは思われていなかった。
当たり前だ。誰であろうと、目に見えない異常より、見える異常の方を深刻に捉えるはずだ。
だが逆に、かえってそれでよかった。
重い荷をようやく地面に下ろせた安心感と、心地よい疲労感があった。





身体に「変化」があった後も、エニシダさんは特に私を他のメンバーからかばう様子はなかった。
逆に、他の面々の反応を気にしていた。
最初は少なからずも胸が痛んだが、これは私を既に自分と同じ位置に、内側の者と見ての事なのだろう、と。
自分のことのように捉えてこその、こういう反応なのだろう。
受け入れて貰えたと解釈してもいいのだろうか。
伴侶、というのは、こういう意味も含んでいたのだろうか。
言葉に、ならなかった。



野営時、見張りを交代する折り。
誰も起きていないことを確認し、私はそっと、座したインバネスコート姿の後ろから腕を回した。
大腿部の翼も「生やし」、夜間の冷えから守るように、肩を包み込んだ。
少し驚かれたが、忌避されることはなかった。
変化以来、少し高くなった体温を、こういうことに使うとは思わなかった。
広い背中が温かい。コートの下の防具を通してすら温かい。
その姿勢のまま、ぽつりぽつりと言葉を交わし、随分長いことそうしていた。

2nd_60.jpg


この方の目的が終わったら、島での冒険が終わったら、人知れず去ろうとしていたのだが、いつしかその考えは溶け始めていた―――


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