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探索76日目 2009-04-03
暫しの修練期間は過ぎ、我々は遺跡外へと戻ってきていた。
あの黒服達を片付け、先に進む準備のためだ。
買い出しに装備の調整など、相変わらず皆忙しい。
あまり休息になっていないような気はするが、戦いがないというだけでも大きく違うのだろう。

そんな中、私は体調の調整に重点を置いていた。
調整、と言うと正確ではない。
正しくは、『変異の起こった身体の機能確認』だ。

マナの影響で、あの「黒い翼を持つ者」と同系統の変容を遂げてはいたが、羽根の色は蒼灰色で、己を失うことがない。
更には変容の箇所を調整でき、腰と大腿部の翼以外は、大抵の身体部位から『生やす』ことが可能だった(あまり意味はなかろうが)。

現出したときは自由に動かせたはずなのに、改めて部屋の中で動かしてみると、これがなかなか厄介だった。
腰の羽根は腕を動かすと一緒に動いてしまうし、脚の方も同じだ。
薬指と小指の関係のようなものだろうか、自在に動かすには時間がかかりそうだ。
マナにより生えるのだから、魔法的なものだろうかと思っていたが、甘かったようだった。
瞬時に細胞分裂が起こり、神経が繋がる。
説明が難しいが、かなり異様な感覚だ。

セレナさんが苦笑いしながら、いろいろと話しかけてきた。
人から外れた者として、いろいろと聞いてやってくれとエニシダさんに頼まれたのだろう。
これでTCには、純粋な人間女性が不在になるという珍事になった。

体調に変化が無いか。
身体の変化は意図的に起こせるのかどうか。
精神面も変化があるのかどうか。
そんな質問に即答し、或いは考えながら。



メンバー間での動揺は比較的小さく、最も懸念した、忌避によるチームワークの乱れなどもなかった。
全くとは言わないが、どうやら杞憂だったようだ。
ただの異形ではなく、マナの物怪なのに忌避されなかったのは、やはり皆どこかに『他人事ではない』という意識があるのだろう。



先の舞踏会でエニシダさんが言っていた「俺の青い鳥」という言葉にも嘘はなかった。
チョコレートのお返しにペンダントヘッドを頂いたのだが、台座にはまった石はインディゴライト―――別名・ブルートルマリンだった。
サファイアよりもなお深く、黒い、夜の闇の色。
私の翼の色だ。
不覚にも胸が詰まり、涙が出そうになった。

時々セレナさんと相談しているところに顔を出しに来られたし、怪物と言っても差し支えのない私に触れても下さった。
夜中にうっかり寝惚けて腰の翼を出してしまい、起こしてしまったのは流石に申し訳なかったけれど。













夢を見た。
黒いマントを羽織り、顔の半分を髪で隠した青年が、すまなさそうな顔でこちらを見ているのだ。
過去の傭兵仲間。
その命は私の刃が断ってしまった。
イアン・フィールドウッド。それが彼の名前だった。



すまなかった。

半分はお前を利用した自害のようなものだ。

苦しませてしまった。



そんなことを言い、彼は黒い剣を差し出した。
その剣は訓練用にエニシダさんに作ってもらった、なかなかの業物だ。
何の疑問もなく私はそれを受け取ると、鞘を抜き去った。

N G A I 

刀身にはそう、刻まれていた。
どこかの神話にある、星の炎に焼き尽くされた森の名前だ。
星の名は、フォーマルハウトという。

Ngai。
Iagn。

何の因縁だろうか。

それ以降、彼は夢枕に立つこともなくなり、私も悪夢を見ることが格段に少なくなった。
あの夢を、あえてただの夢と片付けないで考えてみるが―――
やはり騙されていた、と簡単に切って捨てられるものではなく、故に怒りは湧いてこなかった。
代わりに寂涼感と、少しの哀しみが湧いてきた。

彼は辛かったのだろうか。
辛かったのだろう。
それでも密偵として生き、そして音を立てて折れてしまった。
それでも私に反射的に剣を向けていたのは、傭兵としての本能の成せる業なのか。

次々と戦友は命を落としていく。
彼もその一人だった。それだけだ。
少し道を逸れただけで、彼もまた戦友であったことに変わりはない。

イアン・フィールドウッド。
彼の者に永遠の安息があらんことを。


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