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(※サブキャラ?のアマクサのラストSSです。)

推奨BGM(……)。ようつべは【こちら







深い森の夜、少し開けた野営地に、明々と焚き火が灯っていた。
薪の爆ぜる音と時折夜の鳥が鳴く他は、到って静かな野営の刻であった。
焚き火の脇には、椅子代わりの倒木がふたつ。
一つは使われることなく、もう一つの倒木に、二人は腰掛けていた。

見張りを交代する、ほんの僅かな時間を利用しての時間であった。
とはいえ、此処が危険地帯であることに代わりはなく、そうそう気は抜けない。
寝静まっている仲間達に見咎められるという、小さな危険もはらんでいる。
故に、普通に座るよりもほんの少し近くに。
特に意識して、互いの顔を見ることもなく。
交わす会話も殆どなく。
この二名にとっては、安らぐ時間はほんの少し、戦いの中にあってこそなのだ。

それでも空気が温かいのは、漂うコーヒーの香りのせいだけではないだろう。

主のエニシダ。
剣のフォーマルハウト。

仲間とも恋人とも主従ともつかぬ間柄であった。



野営地から少しばかりの距離がある木の上に、何者かの影があった。
二人を眺める人影だ。
それはそれは懐かしそうに、昔の日記を眺めるように、思い出を振り返るように。
柔らかな微笑を浮かべたその姿は、女に、フォーマルハウトに酷似していた。
差違は長い髪と、そして透明度を感じさせるような身体。
白いその髪は、風もないのにまるで水中にあるように揺らいでいる。

―――死霊であった。
それも並大抵の死霊ではない。永きを生き、業を携えた『質量のある』霊体だ。
名をアマクサという。

そしてそれは、フォーマルハウトの大未来の姿でもあった。





■【SIDE:Amakusa-ManaPhantom】

こうして第三者の視点で見ると、どれほど当時の『私』が満ち足りていたか分かる。
この島を出た後息絶えるまで、少なくともこうまで充足した顔はしていなかっただろう。
息子との旅や、ある国の建国に関わったり、宮仕えをしたりと、それなりに思い入れのある記憶もある。

だが、やはりこの方の存在は唯一無二のものであった。
島での思い出が、風化も美化もされず、リアルを保ったままに記憶していたのは、おそらくは脳にまとわりついたマナのせいなのだろう。
忘れることのできぬ記憶であった。
瞳を閉じて思い出すだけで、胸を締め付ける思いと共に、あの方の、そして三合の鎖の記憶はまざまざと甦っていた。

宮仕えをしていた頃には立場上も含め、縁談の話も少なくはなかったが、全て断っていた。
あの方以外の男性を男性として見ることは、長い長い生涯の尽きるまで、そして尽きた今もなかった。



昔の自分を見るのは些か羞恥を伴うこともあるが、あの方と、あの方と居る『私』は、なんと幸せそうなのだと、しみじみと噛みしめている。
別離の未来を感じ取りながらも、私はあんなに充実した、自然体でいたのだ。
あの方が出会った当時よりもずっと穏やかになっているのは、多少なりとも私の存在が影響してやいまいか?
多少の自惚れが入っているかもしれないが、全くないということはあるまい。

もし離別しなかったら、それだけで私の人生は全く違ったものになっていた事は想像に難くない。
少なくとも、息子は死なずに、私は絶望して彷徨うこともなかったのだろう。
何度も何度も考え、自分の路を死ぬほど悔いたことはあったが、全て遅すぎた所業だった。

私が居なくなった後、あんなに穏やかになったあの方が、真っ直ぐな瞳で指輪を下さったあの方が、ただ黙って終わったと思うのか?
愚かなあの『私』は、自分がそれほど軽視されていたと思っていたのか。思い込もうとしていたのか。

私の生きた路は、どこでこうなってしまったのかと―――






唐突に理解した。
此処に、過去に来たのは、あの方の足跡を辿るためではなかったのだ。
鏡面から来たときに、自分で言っていたではないか。



「しかし、面白い。私の記憶には『私』から呼び出されたことなどないな。
是即ち―――」



即ち今の状態は「刻の枝分かれ」の丁度そこなのだ。
こちらの『私』は、別の世界の私を呼び出せることができる。
この私は、それが出来ない。
所謂「鏡面世界」と呼ばれた業は、こちらの私が行う次元反転分離ではなく、質量のある分身なのだ。その正体は幻術に限りなく近い。
それが差違だ。
ここの『私』との差違だった。
私には別世界の私を呼び出すことなど出来なかった。

嗚呼、そうだ。
それが「枝」のポイント地点だったのだ。
ここが、今此処が、未来への分かれ道なのだ。





私は 私の過去を 変えるために ここに来たのだ





■【SIDE:Fomalhaut-Mercenary】

遺跡外の根城にしている修道院跡より、ほんの少し歩いた小高い丘に、死霊は立っていた。
風の強い月夜の晩だが、その髪は風の影響を受けず、でたらめに揺らぐ。
その死霊こそ、大未来の私だった。

呼び出しを受けたときは何事かと思ったが、元々『私』を向こう側から(大未来から?)呼び出したのは私なのだ。
異界からの風が、少しでも戦力になればと、エニシダさんの力になればと。
形振り構わない一心でのことだった。
戦闘についての話だろうと、私は『私』の元へ歩み寄った。
すぐ眼下には修道院跡から漏れる灯りが煌々と灯っていた。



「―――フォーマルハウトよ。」



死霊の『私』の口から、驚くべき言葉が紡ぎ出された。
同一人物であるお互いを固有名詞で呼ぶなど、我々の間には考えの及ばぬことだった。
よほど私は間の抜けた顔をしていたのだろう、それでも死霊の『私』は言葉を続けた。
いつものあの胡乱な笑みも、今夜ばかりは浮かべていなかった。


「このままで行けば、ぬしはあの方の元を離れることになるのだな。」


意味が分からない。実際に『私』はそのような人生を送ったのだろうに、何故わざわざそんなことを聞くのだろうか。
不思議に思いながらも、答えることになった。


「……そう、なるのでしょうね。
色々と良くしていただいたり、勿体ない言葉をも頂いたのですが、やはり幸福を邪魔するわけにはいきません。
戦火に巻き込むわけにもいきません。」


「考えは変わらぬか。
ぬしがあの方を如何様に思うておるかは、私自身もよう分かっておるから喃。
―――だがな……」


一旦口を噤んだ『私』は、少し考えると再び口を開く。


「あの方が、ぬしをどう思っているのか、深く考えたことはあるのか?
無論ないわけはないであろうが、それは客観的視点ではなかろうて。
……いや、深くは考えないようにしていたのではないかな」


「…………。それは―――……
それでも、それでも私は、あの方の生きる理由たり得ませんよ。
私よりもずっと大事な人やものが沢山、沢山……ある、でしょうし。」


「ほう。それをあの方に向かって言えるかな?」


ドキリとするような言葉を不意に投げかけられた。
強い風が一層強く吹きはじめる。
轟々と、夜の草地が生き物のように蠢く。

あまりに核心を突かれ思考が停止したのか、丘の下から上がってくる人の気配に気付くのが遅れたほどだ。
燐光を発する宝玉ホルダーをぶらさげ、怪訝な顔で歩み寄って来たのはエニシダさんだった。
強風に眼を細め、何かを我々に言う。唇の動きで「どうした?」と聞かれているのは理解した。

怪訝にもなるだろう。同一人物二名がこんな時間に問答をしていれば、通常の光景でないことは容易に分かる。
だが死霊の『私』は、エニシダさんをちらりと見ただけで言葉を続けた。いつもは近づかないという制約の元、距離を取るというのに。

―――嫌な予感がする。


「丁度良い。それ、今こそ先程の言葉を言うてみるがよい。言えぬであろうよ。
ぬしは斯様な考えを持つと同時に、その真逆の思いも確実に有しておるから喃。」


噛んで含めるように言い聞かせる『私』の声は、不可思議な迫力と重みに満ちていた。
知らずのうちに私はエニシダさんに、エニシダさんは私に寄り添い、得体の知れない感覚と共に死霊を凝視していた。
渦を巻くように、強風が草地を駆ける。

『私』が一歩ずつゆっくりと、こちらに近づいて来る。
共に動けなかった。
未知の恐怖故か、次の一言を予想していた故なのか。それとも……

死霊が手を伸ばし、私とエニシダさんの腕に触れた。
永く生きた業の深い霊体は、水が触れるような感触を私たちに与えた。





「心の底から、魂の命ずるまま相手の幸せを願うなら、決してこの手を離すな。
そして、何があろうとも、離れるな。

それが離別し、刻の牢獄を生きた者からの、忠告よ。」





雨に濡れた花のような笑みだった。
そしてその笑みはすぐに見えなくなった。


瞬きをした、その瞬間に『私』の姿は消えていた。
徐々に消えたり、弾けたわけでもない。
忽然と。
瞬時に絵から切り取られたかのように。

いつの間にか風は弱まっていたが、私とエニシダさんは離れる事無く『私』がいた場所を凝視していた。
静かな混乱が収まった後、私の喉から呻くような声が滑り出た。



「アマクサ―――……」



彼女が自分の存在を犠牲にして、私の行く路を変えたのだと気付いたのは、もう暫く経ってからのことである。





■【SIDE:Amakusa-ManaPhantom】

いつから私は居たのか。
そこはとてつもなく広い水辺だった。
闇夜の水辺である。
湖なのか海なのかすらもわからないが、黒々とした、しかし清冽な水は果てが見えなかった。

辺りはしんと静まりかえっており、耳が痛くなるほどの無音であった。
否、痛くなるはずがない。
耳がないのだから。耳どころか、肉体もない。
私は死んでいるのだ。霊体となったものに感覚など無い。



―――ここは、虚無だった。虚無の淵だった。
行き場の無くなった霊体が、昇天もすることもなく彷徨い、ゆっくりと消えていく場所だ。

そうか、ここに居るということは、フォーマルハウトの世界とは別の所にいるということか。
つまり、あちらとは袂を別ったと、枝分かれしたということか。
彼女の行く路は、私と同じ路ではなくなったということだ。
第二の大きな差違が生まれたということだろう。



少しずつ彼女は、私と異なった路を行くのだろう。
あの方と一緒に居るのかもしれないし、やはり居ないのかもしれない。
ひょっとしたら息子は死なないかもしれない。それどころか息子でなく、娘かもしれない。
ある国の建国に携わることもないかもしれず、そうすると国自体が作られないという可能性もなきにしもあらず。
いずれにせよ、予想は不可能だ。
だがそれでいい。

末路を知った私がフォーマルハウトにそれを話したことで、大小の差は分からずとも、確実に違う未来になるのだ。





いつの間にか黒い清水は、私の足首まで満ちてきていた。
静かに足の甲が水に埋没する。
水が緩慢な速度で満ちていく。
これから私は、ゆっくりと時間をかけて消滅するのだ。
転生も昇天もない、魂魄の消滅。

感慨は浮かんでこなかった。
後悔と忘却に支配された人生だったが、まるっきり悪いことばかりだったわけではない。
だが、もう充分だろう。
戦の業は消えただろうか。消えていたら良いだろうな。
業は…… ……





忘却の精霊の、最後の一欠片は、あの方の記憶を縫い止めていた。
霊体にまで憑いていたそれが、虚無に触れて消失する。
記憶が戻ってくる。
こんな時に。

以前の、ずうっと以前の、島を出た後に辿り着いた果ての国。
そこでの大戦で意識不明の重体となり、死出の路で、私は既に亡くなっていたあの方に会ったのだ。
何も変わらない姿で、変わらない穏やかな笑みを湛えて。
私の所業にも、ただ呆れたような苦笑いを浮かべて。

『業が燃え尽きて、灰になるまで待つ』と仰って下さった。



だが、それから更に何百年も経ったのだ。
もう、遭うことは叶わないだろう。幾ら何でも、こんな刻まで、しかもボロボロになった魂魄など待つ由もなかろう。

虚無がじわりと満ちていく。水が満ちていく。
苦痛などはない。
だが、この期に及んで胸は甘く痛み始めた。
その痛みも少しずつ溶けていく。
溶けていく。
一片の光も射さない、暗い虚無に溶けていく。




―――遭いたいなあ。

遭いたい。
何のしがらみも壁も無くなった今、純粋にただそう思う。

あの穏やかな笑顔を、もう一度見たい。
あの優しい声を、もう一度聞きたい。
そしてこんな今際の際でも、心の底からそう思えるひとが居るということは、幸せなのかもしれない。
こんなに長い間、全く変わらない想いを持てるなど、稀に見る僥倖だろう。



アルメリエス・R・レギオン。
フォーマルハウト・S・レギオン。
北落師門天草。
道化のアマクサ。
白鬼天草。



いくつもの名を持ち、永く生きてきたが、存外悪い人生でもなかったのかもしれない。
マナや精霊があの方の記憶を留めてくれたのは、最上の幸運だろう。

遭いたい。
遭いたいなあ。

もし遭えたのなら、また優しく微笑んでくれるだろうか。
仕方のないヤツだな、といわんばかりに。
大きな手で、髪を撫でてくれるだろうか。

息子にも遭ってくれるだろうか。
一足先に逝った息子に。
私とあの方の、紛れもない、かけがえのない子供。
いろいろあったけれど、きっとあの子も懐いてくれるはず。



”父さん、父さん! ほら、あれ! 見てみて!”

”わかった、わかった。少しは落ち着け。母さんに笑われるぞ”



もし路を違えなかったらと、何度も想像した声が。
今際の際に脳が作り出した幻聴か……
よく死にかけて、その度に走馬灯で聞いた、幻聴。
だが、何でもいい。
虚構でもいい。
愛する者たちの声を聞きながら消え失せるのなら、それはなんと幸せな事なのだろう。





ありがとう。
愛してくれてありがとう。





嗚呼



虚無が

覆い被さって

暗い

温かい
























温かく、射さないはずの―――

それは、、、
ruf232.jpg



「……ずいぶんと遅かったな。行くぞ。」


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